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衛生管理はHACCP(ハサップ)を取り入れるのです

HACCP(ハサップ) 行政書士長尾真由子事務所

HACCP(ハサップ)とは何でしょう?

食品関係のお仕事をされていた方なら聞いたことがある、もしくはすでにそれに基づいて衛生管理を行っている、という方も多いでしょう。

 

HACCP(ハサップ)とは、Hazard Analysis and Critical Control Point の頭文字をとった言葉で、厚生労働省のホームページでは次のように定義されています。

 

HACCPとは、食品等事業者自らが食中 毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。

 

この手法は 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。

 

少し分かりにくい文章なので嚙み砕いていうと、食品を取り扱う事業者は、食中毒や異物混入などの原因となる物質は何か、どういう状態の時にそれらは発生するのかを理解しましょう、そしてそれらの物質や状態を取り除いたり、減らしたりするために、原材料の仕入れの段階から、お客様に商品をお渡しするまでの全ての段階で、HACCPの手法を使って安全に食品を管理していきましょう、となります。

 

危害要因とは食品や環境に含まれる、健康に悪影響を及ぼす可能性のある物質や状態のことです。毒菌とは食中毒を引き起こす細菌のことです。異物にはアレルギー物質やフグ毒などの自然毒、農薬や洗剤などの化学毒なども含まれます。また、魚や動物の骨、尖った金属なども異物にあたります。

 

HACCPはもともとアメリカのNASAが、宇宙で人間を食中毒から守るために考えられた食の安全管理の手法です。それが何度も改訂され、更に優れた手法となり、多くの国々で取り入れられるようになりました。

 

日アメリカでは1997年から、EUでは2006年から、HACCPによる衛生管理を対象施設に義務付けています。日本では2020年6月1日より、全ての食品事業者を対象にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられました。

 

ただし、これはあくまで手法であり、個々の事業者では店舗の設備から仕入れ、販売方法なども全く異なってきますので、事業者は独自の管理基準を作成し、それを実行し、記録するところまで求められています。

 

こちらが、制度の全体像になります。

 

キッチンカーの事業者は右の「小規模な営業者等」に分類されていますので、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」、つまり簡略化されたアプローチによる衛生管理をすればよいということになります。

 

※「小規模な営業者等」の詳細な定義はこちらです。

 

出典:厚生労働省 「小規模な営業者等」(000970428.pdf (mhlw.go.jp)) 2023年10月4日

小規模営業者等は、食品衛生法34条の二に書かれています。

 

キッチンカーは2つ目の飲食店営業にあたりますので、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」、つまり簡略化された衛生管理をすれば良いということになります。

|やるべきことは3つ

小規模な一般飲食店の事業者がやらなければならないことは、大きく分けて次の3つになります。

 

1:衛生管理計画の策定

2:計画に基づく実施

3:確認・記録

 

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」が公益社団法人日本食品衛生協会からでています。これは厚生労働省のホームページで厚生労働省が内容を確認した手引書の中の1冊です。厚生労働省は具体的な「やるべきこと」はこの各団体の手引書に委ねています。それではこの手引書に沿って一つづつ見ていきましょう。

 

手引書はこちらからダウンロードできます↓

 

食品等事業者団体が作成した業種別手引書 (mhlw.go.jp)

1:衛生管理計画の策定

その名の通り、衛生管理計画を作成していきます。

ただ、「計画を立てましょう」と言われても、何から手を付けてよいかわかりませんよね。でも安心してください。手引書には下記のひな形が用意されていますので、順番にひな形をうめていけば、計画書を作成できるようになっています。

「私のキッチンカーではこんなこともするんだけど、ひな形には無いな」という場合はこれに足していくこともできます。

また、トイレを併設しているキッチンカーは無いと思いますので、こちらは開けておくか、エクセルなどで作り直すのが良いかと思います。

 

計画書には2つのポイントがあります。

一般的衛生管理のポイント重要管理のポイントです。

 

こちらが計画書のひな形です。


一般的衛生管理のポイント

 

ひな形を見ると、①から④-2までのポイントがあり、全てのポイントに「いつ」「どのように」「問題があったとき」の項目を書き込むようになっています。

日頃調理場で行っていることと照らし合わせながら、いつどのように行うのか計画を立ていきます。

 

手引書には全ポイントの具体例が記載されていますが、ここでは①のポイントの具体例だけを見ていきたいと思います。

これを見ると、なにも特別なことを計画するわけではないということが分かっていただけたのではないでしょうか。

 

「いつ」というのはいつ行うのかを決めておくということです。だいたいどこの飲食店でも納入時に確認するので、ここではいつの選択肢が「その他」と2つしかありませんね。

 

「どのように」は、どのような方法で行うのかを決めておきます。例を見ると、見た目、におい、包装など、普段何気なくチェックしていることが書かれていますね。これを毎回意識してできるよう計画を立てましょう、ということです。

 

「問題があったとき」は、問題が発生した時、普段と違うことが起こった時の対処法を決めておきます。これも例では、「返品・交換」とごく当たり前の事が書かれています。ですので、HACCPだから、国際基準だからといって何も特別なことを計画しなけらばならないわけではありません。

重要管理のポイント

 

調理方法によってメニューを下の3つのグループに分類して、それぞれのチェック方法を決めていきます。

ここで大切なのは、どのメニューがどのグループなのかを分類することではありません。それよりは、食中毒を引き起こす有害な微生物を死滅させ、増殖させないためのチェック方法をしっかり考えることが重要になってきます。

手引書の中でも危険温度帯である10℃から60℃に着目してチェック方法を定めるようアドバイスしていますし、図を使ってしっかりと説明しています。

ただし、分類に迷ったら、管轄の保健所に聞くこともできます。

こちらが重要ポイントの記載例です。

例を見ると、いかに危険温度帯に食品をさらさないか、危険温度帯の上下に食品を置くことにより、いかに有害な微生物を死滅させるかを重視したチェック方法になっていますね。冷蔵庫は10℃以下ですから、冷たいものは冷蔵庫から出したらすぐにお客様に出します。火を通すものはきちんと火が通っているか確認します。火が通ったかの確認は温度計などを使わなくても、見た目や触わった感じなど、今までの経験から培ったチェック方法や日々行っているチェック方法でかまいません。

2:計画に基づく実施

1で決めた計画に従って、日々の衛生管理を行います。手引書の中には、詳細な手順が記されています。

ここでは、ポイントだけを見ていきます。

 

1.原材料の受入の確認

原材料が到着したら、注文と商品が合っているか確認します(商品、数量等)。さらに、外観、におい、包装の状態、表示(期限、保存方法)などを確認します。冷蔵、冷凍品は室温で置かれる時間をできるだけ短くします。

 

2.冷蔵、冷凍庫の温度の確認

冷蔵庫、冷凍庫の庫内温度の確認をします。キッチンカーにおいても、温度計は必ず買っておかなければなりません。可能であれば、外から温度が見える冷蔵庫を購入すると便利です。

 

3.交差汚染、二次汚染の防止

交差汚染は二次汚染と同じ意味です。つまりどちらも、食材についている菌やウィルスが、まな板や包丁などの調理器具や人の手を介して他の食材に広がってしまうことを言います。

 

生肉、生魚介類などの食材はふた付きの容器に入れ、冷蔵庫の最下段に保管すると良いでしょう。まな板、包丁などの調理器具は、肉や魚などの用途別に分け、それらを扱った都度十分に洗浄、消毒します。

 

4.器具等の洗浄・消毒・殺菌

器具は①まな板、包丁、へら等と②ふきん、タオル等に分けて洗浄・殺菌の手順が示されています。

 

①まな板、包丁、へら等の洗浄・消毒・殺菌方法

水道水で水洗いした後、スポンジタワシに洗剤をつけ、よく泡立てて洗浄します。その後、よく水道水で洗剤を洗い流し、熱湯、塩素系洗剤または70%アルコールなどで殺菌します。乾燥させ、清潔な場所で保管します。

 

②ふきん、タオル等の洗浄・消毒・殺菌方法

水道水で水洗いした後、洗剤をつけ、泡立ててよく洗います。水道水で洗剤を洗い流し、可能であれば5分間以上の煮沸殺菌または塩素系殺菌剤で殺菌を行います。清潔な場所で乾燥・保管します。

 

5.トイレの洗浄・消毒

トイレをキッチンカーに設置している事業者の方はほとんどおられないと思います。ですので、トイレの洗浄・消毒についてはここでは触れません。ただ、外部のトイレを使わせてもらった後に、7で説明する「衛生的な手洗いの実施」は必要になってきます。いちいち洗剤をつけての手洗いは面倒ですが、お客様側の気持ちになって、必ず実行していただきたいところです。

 

6.従業員の健康管理・衛生的な作業着の着用など

始業前や作業中の決めた頻度で、「従業員に下痢や嘔吐の症状がないか」、「従業員の手指に傷がないか」を確認します。また、「従業員が食品を取り扱う時には、清潔な服を着用しているか」確認しましょう。

従業員とありますが、キッチンカーでは事業主自らが、店員となって営業を行うことも多いと思いますので、ご自分の健康チェック、服装チェックをしてみてください。また、健康に問題がある場合は、出店を見合わせることなども計画にいれておくとよいと思います。この辺りは固定店舗を持たないキッチンカーの融通のきくところですね。

 

7.衛生的な手洗いの実施

手洗いの方法も、手順書の中で図を用いて丁寧に説明されています。

以上が、「2:計画に基づく実施」の概要になります。

いづれの実施項目においても、問題があった場合には、「1:衛生管理計画の策定」で決めた方法に従って対応して下さい。

また、実施した内容は次に示す実施記録に日誌のように記録していきます。

3:確認・記録

さあここまでくれば、あとは実施したことを確認して記録していくだけですね。

とはいえ、「日誌のように記録?どうすればいいの?」という方も多いでしょう。

日誌と言ってもメモのようなもので、複雑な文章を書く必要はありません。また、記録簿も手順書の中でひな形と記載例が用意されていますので、それらを参考に記録していくことができます。

 

記録は1日の最後に行うとよいでしょう。

 

こちらが、手引書の中にあるひな形です。


計画で立てた分類どおりに実施記録の項目が作成されていますね。1行が1日ですので、割と簡単なものだと安心された方もいらっしゃるのではないでしょうか。1枚で1か月分を書くことができるようになっていますので、管理もし易いと思います。

こちらが記載例です。

㋐できていれば「良」、十分でない場合には「否」に〇をつけます。

㋑日々チェック欄にはチェックした人の名前を記入します。

㋒「否」に〇をした場合は、特記事項に対処方法をメモします。

㋓チェックした人とは別の方が週に1度程度確認して「確認欄」にサインをします。

 

㋓に関しては、「可能であれば」で大丈夫です。キッチンカーは一人で営業される方も多いので、チェックした人と確認した人が同じになってもかまいません。これは下記のP33に書かれていますので、心配な方はチェックしてみてください。

 

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書

(小規模な一般飲食店事業者向け)

000479903.pdf (mhlw.go.jp) 

次に、重要管理の実施記録の記載例です。

重要管理の記載の注意点も、一般管理の記載と同じです。

確認時以外に問題が発生した時も、レ印などをつけて特記事項に対処した内容を記載しておいてください。

また、定期的(1か月など)に振り返り、何度も同じようなクレームや衛生上の問題点があった場合は対応を考えていきましょう。

 

記録は1年間程度は保管し、保健所の食品衛生監視員から提示をもとめられた場合はさっと出せるようにしておきましょう。

まとめ

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

いかがでしたか?「どうしてこんな面倒なことをしなければいけないの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。手引書も55ページあり、読むだけでも一苦労ですね。

 

以上の衛生管理の手法を行うことにより、「衛生管理を見える化」することがこの制度の目的です。

見える化することにより、問題が生じたときに対応を取りやすくなりますし、原因を探って、次から同じ問題を発生させないようにもできます。また、この管理を行うことにより、「きちんとした衛生管理をしています」という証明にもなります。問題が発生した時に自分の身を守ることができ、対外的な信用にもつながります。

 

もし、独自の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を作成したいが良く分からない、という方がおられましたら、どうぞ行政書士長尾真由子事務所にご相談ください。初回相談30分は無料です。